2026年2月13日金曜日

私たちは「中胚葉」を軽視しすぎていないか? ——世界を動かす「骨と筋肉と配管」の美学

 

私たちは「中胚葉」を軽視しすぎていないか?

——世界を動かす「骨と筋肉と配管」の美学

高校の生物の授業を覚えているだろうか。 受精卵が細胞分裂を繰り返し、やがて身体の元となる3つの層に分かれる瞬間のことを。

外側にある**「外胚葉(がいはいよう)」は、皮膚となり、神経となり、脳になる。 内側にある「内胚葉(ないはいよう)」**は、消化管となり、肺となり、膀胱になる。

ここまでは分かりやすい。「感じる・考える外側」と「取り込み・排出する内側」。生物としての基本セットだ。 しかし、その間に挟まれた、一見地味な層がある。それが**「中胚葉(ちゅうはいよう)」**だ。

教科書ではさらりと流されがちなこの「真ん中の層」。だが、大人になった今だからこそ気づく真実がある。 実は、世界の大半は「中胚葉」でできているのだ。

1. クラゲにはなれなかった私たちの「業(ごう)」

進化の歴史を振り返ると、ある劇的な革命が起きている。 クラゲやイソギンチャクを想像してほしい。彼らは「二胚葉」の生物だ。皮膚(外)と消化管(内)だけで生きている。彼らは基本的に、水の流れに身を任せて漂うしかない。

しかし、私たちは「三胚葉」へと進化した。 外と内の間に、分厚い「中胚葉」を獲得したのだ。そこから生まれたのが**「筋肉」「骨格」**である。

中胚葉の獲得とは、単に体が分厚くなったことではない。 「あそこに行きたい」という意志を、「移動」という物理現象に変換するエンジンの獲得だったのだ。

漂うのをやめ、自らの筋肉で水流に逆らい、獲物を追いかける。 この「主体性(Agency)」の正体こそが中胚葉だ。私たちが何かに情熱を燃やし、汗をかいて現状を変えようとする時、そこで唸りを上げているのは脳みそ(外胚葉)ではない。太古から受け継いだ中胚葉のパッションなのだ。

2. インフラという名の「社会的・中胚葉」

この視点を持ち、「社会」という巨大な有機体を見渡してみてほしい。驚くほど構造が似ていることに気づくだろう。

  • 外胚葉(脳・皮膚): 経営層のビジョン、広告、UI/UX、SNSのタイムライン。きらびやかで、情報処理を司る「司令塔」。

  • 内胚葉(消化管): 消費活動、エネルギー需要、基礎的な欲望。

現代社会は、とかくこの「外(映え・情報)」と「内(消費・欲望)」ばかりが肥大化しがちだ。 だが、その間を繋いでいるのは誰か?

物流トラックのドライバー、金融システムの決済インフラを支えるエンジニア、ビルの配管を直す設備屋、現場の指揮官——。 彼らこそが**「社会的中胚葉」**だ。

彼らは骨となり、建物を支える。 彼らは血管となり、血液(お金や物資)を末端まで送り届ける。 彼らは結合組織となり、バラバラになりそうな「理想(脳)」と「現実(現場)」を繋ぎ止める。

中胚葉的な仕事は、うまくいっている時は「透明」だ。誰も筋肉の存在を意識して歩いたりしないのと同じように。しかし、ひとたび機能不全に陥れば、社会は即座に「複雑骨折」を起こして動けなくなる。 私たちが金融の実務やインフラに美しさを感じるのは、そこに**「文明を直立させている骨格の矜持」**を見るからではないだろうか。

3. 「中」を取り戻す生き方

現代人は、少し「中胚葉不足」に陥っていないだろうか。

スマホの画面(外胚葉)を見つめ、美味しいもの(内胚葉)を食べる。 入力と出力だけの、「高度なクラゲ」のような生活になってはいないか。

自分の手足を動かすこと。 面倒な人間関係(結合組織)の摩擦を引き受けること。 泥臭い実務(代謝と循環)を回すこと。

そうした「中胚葉的な営み」の中にこそ、生きているという確かな**「質量」**がある。

もしあなたが今、日々の仕事の泥臭さに疲れているなら、こう思ってほしい。 自分は今、この組織の、この社会の、**「中胚葉」**をやっているのだと。 脳みそだけでは世界は1ミリも動かない。私が動くから、世界が動くのだと。

さあ、中胚葉をパンプアップさせよう。 思考と欲望の間にある、その分厚い「現実」を動かすために。

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