現代哲学の別の角度からの学び方、無矛盾なものと無矛盾でないものの比較で学ぶ ―日本と西洋文化比較で学ぶ現代哲学、ネオジャポニズム ネオアールヌーボー 心と意気と感性の隙間に浸透して埋める気とエーテル －ロゴス、非ロゴス的なものの対置から－

現代哲学の別の角度からの学び方、無矛盾なものと無矛盾でないものの比較で学ぶ ―日本と西洋文化比較で学ぶ現代哲学、ネオジャポニズム　ネオアールヌーボー　心と意気と感性の隙間に浸透して埋める気とエーテル　－ロゴス、非ロゴス的なものの対置から－ 序：ある日の映画体験と、哲学への入り口 先日、娘に連れられて『鬼滅の刃』の映画を観てきました。 大正ロマンの色彩、呼吸という目に見えない力、そして理不尽な鬼（ロゴス的な暴力）と戦う剣士たち。 上映時間が長かったので、その間、ふと哲学的な思考に耽っていました。私たちが「日本的」だと感じるあの世界観は、西洋的な「構築（ロゴス）」の隙間を埋める「気配（非ロゴス）」でできているのではないか、と。 現代哲学を学ぶ上で、最も難解なのは「構造主義」です。逆に、「ポスト構造主義的な相対主義」や「メタ認知」は、概念としては理解しやすい。 「自由、平等、博愛」といった理念はキャッチーですが、それを実装しようとすると、システムエラー（矛盾）が必ず生じます。この「除去不能な矛盾」をどう扱うか。それが現代哲学の核心であり、仏教の「空」や「中道」にも通じるテーマです。 今回は、あえて正攻法の構造主義解説ではなく、「無矛盾なもの（ロゴス）」と「無矛盾でないもの（非ロゴス）」という二項対立を軸に、日本と西洋の文化比較を通じて、現代哲学の新しい学び方を提案してみたいと思います。 第1章：ロゴス的なものと、その間を満たす非ロゴス的なもの 1. 「真空のない二元論」という視座 世界はざっくりと2つに分けられます。 ロゴス的なもの: 形態を持ち、分かりやすく、目立つもの。「～主義」「～法」「～理論」など言葉で構築されるもの。 非ロゴス的なもの: ロゴス的なものの間を埋めるもの。空気、エーテル、道（タオ）、虚などと呼ばれる、隙間に浸透するメディア。 世界をこのように二分することは単純化の極地ですが、非常に分かりやすい。 重要なのは、ロゴスがない場所は「真空」なのではなく、非ロゴス的な何かが「満ちている」という視点です。 2. ルビンの壺を反転させる ゲシュタルト心理学の「ルビンの壺」をご存知でしょうか。壺（図）を見ている時は顔（地）が見えず、顔を見ている時は壺が見えなくなる。しかし、訓練すれば意識的に反転させることができます。 図（ロゴス）: 政治、法、科学技術、エクリチュール（書き言葉）。 地（非ロゴス）: 感情、直感、場の空気、ディスクール（話し言葉）の余剰部分。 西洋近代は、この「図（ロゴス）」を徹底的に磨き上げてきた文化です。一方、日本は伝統的に「地（非ロゴス）」の側を豊かに育んできました。この図と地を反転させることで、全く違う世界観が見えてきます。 第2章：西洋近代の宿痾と、日本的感性の対比 1. 「心をなくす」ということ ドストエフスキーの小説（『罪と罰』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』）は、近代と非近代の葛藤を描いた傑作です。 ラスコーリニコフやイワン・カラマーゾフのように、ある種のイデオロギー（ロゴス）に取り憑かれた人間は、人間性や柔らかい「心」を失っていきます。これは現代の政治家やコメンテーターにも通じる、近現代の普遍的なテーマです。 2. 心を推す文化 vs 心を抑圧する文化 日本と西洋の違いを一言で表すなら、こうなるでしょう。 日本: 心（湧き上がる感情・直感）を推す文化。やや天然で、無意識的。 西洋: 心（感情・情動）を抑圧・管理する文化。人工的で、意識的。 これは文化というソフトウェアの違いを超えて、もしかすると脳のハードウェアレベル（OSやBIOS、あるいはDNA）の違いにまで及ぶかもしれません。 西洋（特にプロテスタント的伝統）では、神以外の対象に感情移入することは「偶像崇拝」として禁じられます。家畜にペットのように感情移入しては、畜産は成り立ちません。 この「対象を唯物的に見る（突き放す）」という訓練が、西洋の科学や論理的思考（ロゴス中心主義）を発達させましたが、同時に心の隙間を真空にしてしまいました。 第3章：日本という「異端」が主流になる時代 1. 周辺から正統へ 「その他全般」「～ではない（非合理）」として扱われてきた日本的なるもの。 しかし、数学の場合分けにおいて「A」と「A以外（非A）」に分けるのが便利なように、この「その他（非ロゴス）」というカテゴリーは、ロゴス以外のすべてを総取りできる広大な領域です。 かつてローマ帝国で異端だったキリスト教が正統になったように、あるいは日本仏教で異端だった浄土系が最大宗派になったように、「周辺」にあったものが「正統」へと反転する現象が歴史にはあります。 2. 世界が日本を受け入れつつある理由 今、世界的な日本ブームが起きています。これは単なるエキゾチズムではありません。 西洋文化圏の人々が、自らの「ロゴス中心主義（唯物論）」の限界を感じ、日本人が大切にしてきた「場」「気配」「感情移入」といった非ロゴス的な価値観（ネオ・ジャポニズム、ネオ・アール・ヌーヴォー）に共鳴し始めているからです。 物理学における「場の量子論」では、素粒子（ロゴス）は場（非ロゴス）から生まれ、場に還ります。場こそが本質であり、マトリックスです。 空気や水のように「タダ」で無限にあると思われていた「場（心・安心）」が、実は希少で重要なものだと、世界が気づき始めたのです。 3. 日本人の変化と、新たな融合 一方で、日本人自身も変化しています。高度経済成長やバブル崩壊、新自由主義の波の中で、かつての日本的な情緒は薄れ、西洋的な合理性（サイコパス的な割り切り）を身につけた人も増えました。 しかし、だからこそ今、逆説的に「オタク文化」や「推し活」のような、金銭的合理性を超えた「底なし沼のような情念」が一般化しています。 これは、日本と西洋がお互いに歩み寄り、メンタリティの垣根が低くなった結果とも言えます。 「ロゴス（無矛盾なもの）」だけで世界を構築しようとして行き詰まった現代において、日本的な「非ロゴス（矛盾を含んだままの調和）」を取り入れること。 それこそが、現代哲学を「実用ツール」として使いこなし、この複雑な世界を生き抜くための鍵になるのではないでしょうか。